こんにちは。日本文化ラボ(Nippon Culture Lab)、運営者の「samuraiyan(さむらいやん)」です。
京都には、派手に自己主張せず、しかし確実に世界を支える企業がある。
その代表格の一つが、オムロンだ。
京都を拠点に、世界を支える企業オムロン。
その思想と未来戦略を、京都という土地の文脈から読み解きます。
オムロンの歴史と社名の由来
- オムロンが京都・御室の地で育んできた独自の歴史と社名の由来
- 「SINIC理論」という未来予測モデルが経営に与える影響
- 自動改札機から血圧計まで、私たちの生活を変えた「世界初」の技術力
- 構造改革「NEXT 2025」が目指す持続可能な未来
オムロンという名前を聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
駅の改札機や家庭にある血圧計など、私たちの暮らしに密接に関わっている企業ですよね。
ここでは、創業の地である京都の精神がどのように息づき、比類なき技術を生み出してきたのか、その成り立ちを紐解いてみたいと思います。
立石一真が創業した歴史と地名から生まれた社名
オムロンの輝かしい歴史は、1933年に創業者である立石一真さんが大阪で産声を上げた「立石電機製作所」から始まります。しかし、今のような「京都の企業」としてのアイデンティティを確立したのは、第二次世界大戦末期の1945年のことでした。戦火が激しくなる中、工場を焼失から守るために疎開先として選んだのが、京都市右京区の「御室(おむろ)」という場所だったんです。

御室(Omuro)が世界の「OMRON」へ
仁和寺にほど近いこの地は、古くから京都の風情が残る美しい場所。そこで再出発した立石電機は、戦後の復興期に次々と革新的な製品を世に送り出します。1950年代に入り、グローバルな展開を見据えてブランド名を検討する際、この愛着ある地名「御室」をもじって「OMRON(オムロン)」という商標が誕生しました。1959年のことです。
地名を社名の由来にするというのは、京都の企業らしい地元愛を感じますよね。1990年には正式に「オムロン株式会社」へと社名を変更。単なる製造業の枠を超え、京都という土地が育んだ「革新を重んじ、新しいものに挑戦する気風」を社名そのものに刻み込んだわけです。
豆知識:御室という地名御室は、宇多天皇が仁和寺を創建した際、修行のための御座所(おむろ)を設けたことが由来とされています。そんな由緒ある歴史の街から、現代のハイテク企業が生まれたというのは、京都の奥深さを象徴するエピソードかなと思います。
京都の企業に共通する独自経営と非模倣性の精神
京都には、任天堂や京セラ、村田製作所といった、世界に名だたる企業がひしめき合っています。これらの「京都発・世界企業」に共通するのは、「人真似をしない」という強い自負と独創性です。オムロンもその例外ではありません。
「日本経済のシリコンバレー」としての京都
京都の企業群は、かつてから「独立独歩」の精神が非常に強いことで知られています。特定のメインバンクや派閥、財閥の傘下に入らず、自らの技術力だけで世界市場を切り拓いていくスタイルです。オムロンが長年大切にしてきた「グローバル・ニッチ・トップ」戦略も、まさにその典型。日本国内の小さな市場で争うのではなく、最初から「世界で通用する独自の技術」で勝負する姿勢が、現在の地位を築いたと言えます。
また、京都企業には「伝統を尊重しながらも、革新を恐れない」というバランス感覚があります。オムロンの「企業は社会の公器である」という経営理念も、近江商人の「三方よし」に通じるような誠実さを持ちつつ、最新のデジタル技術を誰よりも早く取り入れる柔軟さを持ち合わせています。この「非模倣性」こそが、競争の激しい製造業界でオムロンが輝き続ける理由なのかなと思います。
「制御」という思想が京都で育まれた理由
オムロンを単なる「制御機器メーカー」と呼ぶのは少し違うかもしれません。制御とは、混乱を抑え、社会を滑らかに動かすための思想そのものです。京都という土地は、長い歴史の中で秩序と調和を重んじてきました。派手に主張するのではなく、見えないところで全体を支える。オムロンの「センシング&コントロール」という中核技術は、そうした京都的価値観とどこか重なります。目立たなくても、社会を止めない存在。それがオムロンの本質ではないでしょうか。
センシングとコントロールが支える主要な事業内容

オムロンの強みを一言で言えば、「センシング&コントロール+Think」というコア技術に集約されます。これは、情報を捉え(センシング)、分析し(Think)、機械を制御する(コントロール)という一連の流れのこと。この技術が、今の私たちの社会を支えるさまざまな事業へと広がっています。
| 事業セグメント | 主な役割と製品 | 社会への貢献ポイント |
|---|---|---|
| 制御機器事業(IAB) | センサ、コントローラ、産業用ロボット | 製造現場の自動化による人手不足解消・生産性向上 |
| ヘルスケア事業(HCB) | 電子血圧計、心電計、ネブライザー | 家庭での健康管理を通じた脳・心血管疾患の予防 |
| 社会システム事業(SSB) | 自動改札機、パワーコンディショナ | 交通インフラの円滑化と再生可能エネルギーの普及 |
| 電子部品事業(DMB) | リレー、スイッチ、各種マイクロセンサ | 家電やEVなど、あらゆる電子機器の進化を支える |
「モノ」から「コト」への進化
どの分野においても、ただの「モノづくり」ではなく、「社会が必要としている解決策(ソリューション)」を提供しているのが印象的ですね。例えば、工場向けのロボットをただ売るのではなく、いかに人の能力を最大化させるか、といった「+Think」の部分にこそオムロンの本質があると言えます。
(出典:オムロン株式会社『事業紹介』)
SINIC理論で未来を予測する経営哲学と社会価値

オムロンが驚異的な先見性を持っている理由の一つに、独自の未来予測理論「SINIC理論」があります。これは、創業者・立石一真さんが「科学(Science)」「技術(Technology)」「社会(Society)」が互いに円環的な影響を及ぼし合いながら進化するという考え方で、なんと1970年の国際未来学会で発表されたものです。
半世紀以上前に予見された現代社会
驚くべきことに、この理論はインターネット社会の到来や、現代の「最適化社会」への移行を数十年も前に予見していました。理論によれば、2005年頃からは「工業社会の負の側面(公害や資源枯渇など)」を克服し、社会を最適化していくプロセスに入るとされています。私たちが今、SDGsやカーボンニュートラルといった課題に向き合っているのも、この理論に基づけば必然の流れなんですね。
2025年以降、SINIC理論は「自律社会」の到来を予測しています。これは、個人の自律的な意思が尊重され、人間と機械が調和する社会。オムロンのすべての事業戦略は、この未来予想図に基づいて策定されています。単なる利益追求ではなく、「社会の公器である」という哲学を持ち、未来を先取りして動いているからこそ、時代が変わってもブレない経営ができるのだと感じます。
世界初を連発した自動改札機やATMの開発秘話
今では当たり前のように使っている「駅の自動改札機」。実は、1967年に世界で初めて無人駅システムを実現したのはオムロンなんです。大阪の千里丘陵で開催された万博に向けて、阪急電鉄北千里駅に設置されました。

「機械にできることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」
立石一真さんのこの言葉通り、当時の改札業務は駅員さんが手作業で切符を切るという重労働。切符の種類も多岐にわたり、それを一瞬で判別してゲートを動かす技術は当時としては魔法のようだったはずです。
他にも、1971年には世界初のオンラインATM(現金自動支払機)を開発。銀行が閉まっている時間でもお金が引き出せるという、今では信じられないほどの利便性をもたらしました。「世界初」の称号を持つ製品が数多く存在するのは、それだけ社会の不便(ソーシャルニーズ)を敏感に察知し、技術で解決しようとしてきた証拠ですね。オムロンの歩みは、そのまま日本の社会インフラの進化論と言い換えても過言ではありません。
家庭用血圧計のシェアが誇るヘルスケア分野の強み
多くの人が「オムロンといえば?」と聞いて思い浮かべるのが血圧計でしょう。実際、家庭用血圧計の世界シェアは約50%に達しており、累計販売台数は3億台を突破しています。まさに世界標準のデバイスです。

「ゼロイベント」への挑戦
私が感銘を受けたのは、オムロンが掲げる「ゼロイベント」というビジョンです。これは、血圧を家庭で正しく測る習慣を広めることで、高血圧が原因で起こる脳卒中や心筋梗塞などの発症(イベント)をゼロにしようという壮大な挑戦です。
最近では、単に腕に巻いて測るだけではありません。Apple Watchのようなウェアラブル型や、心電計付きの血圧計など、技術の進化が目覚ましいです。さらに、スマートフォンアプリと連携してデータを医師と共有する遠隔医療のプラットフォーム作りにも力を入れています。世界中の人々の健康寿命を延ばそうとする姿勢には、一ファンとして大きな期待を寄せてしまいます。
京都のオムロンが挑む京都発の世界企業の構造改革
輝かしい実績を持つオムロンですが、現在はさらなる飛躍に向けた大きな変革期を迎えています。目まぐるしく変わる世界情勢の中で、どのように自らをアップデートしようとしているのか、その戦略と覚悟について触れておきましょう。
SF2030で掲げる持続可能な成長と社会課題解決

2022年にスタートした長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」。ここでオムロンは、2030年に向けて「人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを創造し続ける」と宣言しています。
3つの社会的課題へのフォーカス
SF2030では、これからの社会で特に深刻化する以下の3つの課題を解決することに全力を注いでいます。
- カーボンニュートラルの実現:製造現場の省エネ・創エネを支援し、地球環境を守る
- デジタル社会の実現:あらゆるものが繋がる社会の安全・安心を技術で支える
- 健康寿命の延伸:一人ひとりが健やかに自分らしく生きられる社会を作る
「企業は社会の課題を解決するために存在する」という創業の理念を、現代のESG経営の文脈でさらに力強く具体化した内容だと言えます。利益を追うだけでなく、地球や人のために何ができるかを本気で考えている、京都らしい一本芯の通ったビジョンだなと思います。
JMDCとの連携で加速するデータソリューション事業
近年、オムロンが特に力を入れているのが「データ」の活用です。その象徴とも言えるのが、2023年に子会社化した医療データ統計大手のJMDCとのタッグ。これが今後のオムロンの成長を占う上で非常に重要なんです。
「モノ」×「データ」の相乗効果
オムロンが家庭用血圧計などで得られる「バイタルデータ(生体情報)」を持っているのに対し、JMDCは日本最大級の「レセプトデータ(診療報酬明細)」や健診データを持っています。これらが組み合わさることで、「この血圧の値の人が、将来どのような病気になるリスクがあるのか」といった高度な予測が可能になります。
「ハードウェアを売る会社」から「データで価値を提供する会社」へ。このパラダイムシフトこそが、次世代のオムロンの大きな武器になるはずです。製薬会社や保険会社、自治体など、これまでは接点がなかった領域へもサービスが広がっており、新しい収益の柱として成長が期待されています。
平均年収や初任給に見る人的資本への積極的な投資
優秀な技術やサービスを生むのは、やはり「人」ですよね。オムロンは「人が活きる」という言葉を大切にしていますが、それは社員に対しても同じことが言えます。
業界内でもトップクラスの待遇
オムロンの平均年収は例年800万円を超え、日本の製造業の中でも非常に高い水準を維持しています。さらに、2024年度からは人材獲得競争が激化する中で、若手社員の初任給を大幅に引き上げました。
オムロンの初任給(2024年度実績)
- 博士了:337,300円(前年比 約6万円増)
- 修士了:300,000円(前年比 約2.6万円増)
- 学部卒:270,000円(前年比 約2.6万円増)
これだけの上げ幅は、AIやデータサイエンスといった先端領域の優秀なエンジニアを確保したいという強い意志の表れ。社員一人ひとりが自律的に成長し、その能力を最大限に発揮できる環境を整えることが、結果として世界一の技術を生むという確信があるんでしょうね。
構造改革NEXT2025による人員削減と組織再編
一方で、現在は厳しい現実に直面していることも事実です。主力である制御機器事業(IAB)が、これまで大きな収益源だった中国市場での景気減速や地元競合メーカーの台頭により、厳しい状況にあります。これを受け、2024年に構造改革プログラム「NEXT 2025」が策定されました。
「黒字リストラ」の背景にある危機感
国内外で約2,000名規模の人員削減(国内では1,000名の希望退職募集)を行うというニュースは、地元京都でも大きな話題となりました。いわゆる「黒字リストラ」とも呼ばれますが、これは経営が悪化してから慌てて行うものではなく、「将来の競争力を維持するために、今メスを入れる」という攻めの姿勢でもあります。
従来のハードウェア製造中心の組織から、ソフトウェアやソリューション、データビジネスに強い組織へと生まれ変わるためには、痛みを伴う再編が避けられなかったのでしょう。2025年度には約300億円の固定費削減を見込んでおり、この「聖域なき改革」を経て、再び力強く成長できるかどうかが、京都発の世界企業としての真価を問われる局面だと思います。
地域協力基金を通じた地元への貢献と共生の歩み

オムロンの活動はビジネスだけにとどまりません。1972年に日本で初めての障がい者福祉工場「オムロン太陽」を設立したことに象徴されるように、社会貢献の歴史は非常に深いです。
「京都の企業」としての誇り
また、「京都オムロン地域協力基金」を通じて、京都府内の福祉、青少年育成、環境保全活動などを長年支援し続けています。大きな寄付だけでなく、草の根的な小さな活動に対しても継続的に助成を行っている点が、地元の方々に信頼されている理由かなと思います。
創業記念日の5月10日には、世界中の社員がボランティアに参加する「Founder’s Day」という伝統もあります。鴨川の清掃活動などは、京都の人々にとってもお馴染みの光景ですね。単に本社が京都にあるというだけでなく、京都という地域社会と深く共生し、共に歩んでいこうとする姿勢が社員一人ひとりに浸透しているのは、本当に素晴らしいことだと感じます。
任天堂や京セラと並ぶ京都企業としての存在感
任天堂が「楽しさ」を、京セラが「哲学」を語る企業だとするなら、オムロンは「未来」を語る企業です。いずれも共通しているのは、短期的な流行ではなく、数十年単位で社会を見つめている点です。京都企業の特徴である「非模倣性」と「独立独歩」の精神は、オムロンにも確かに息づいています。だからこそ、派手な広告を打たなくとも、世界のインフラの裏側で確固たる地位を築いてきたのでしょう。
まとめ:京都が育てた“未来を読む企業”オムロン
京都という伝統の街から生まれ、社会の裏側を静かに支えてきたオムロン。その歩みを辿ると、そこにあるのは単なる技術力ではなく、「制御」という思想と、「企業は社会の公器である」という揺るぎない哲学でした。
任天堂が夢を、京セラが経営哲学を語るなら、オムロンは未来を語る企業です。半世紀以上前に社会の進化を描いたSINIC理論は、今なお企業戦略の羅針盤であり続けています。
構造改革という変化の只中にあっても、その根底にあるのは“人が活きる社会”という理想です。京都という土地が持つ、伝統と革新の共存。その精神が、オムロンという企業の芯を形づくってきたのでしょう。
駅の改札機や家庭の血圧計の向こう側にある、見えない思想。
それを知ったとき、オムロンという企業の輪郭は、少し違って見えてくるはずです。

